Cadence and synchronization limit the accumulation of variance.
—Don Reinertsen, Principles of Product Development Flow
原則#7 - ケイデンスを適用する。分野横断のプランニングで同期する
ソリューション開発は、本質的に不確実なプロセスです。そうでなければ、ソリューションはすでに存在し、次世代のイノベーションの余地はなくなってしまいます。この不確実性は、ビジネスが投資を管理し、進捗状況を追跡し、将来の成果に十分な自信を持って、理にかなった行動方針をプランし実行する必要性とは相入れないものです。
この課題に対処するために、アジャイル開発は「安全地帯」で最も機能します。そこでは、イノベーションを追求し、イベントに対応する自由を提供するのに十分な不確実性がありながらも、ビジネスが運営するために必要な信頼を提供します。 このバランスは、現状の客観的な知識を通じて達成できます。 現状を知っていると管理がしやすいものです。 この知識は、「ケイデンス」、「同期」、そして定期的な「分野横断のプランニング」を適用することで得られます。
「ケイデンス」は、開発プロセスの安定した鼓動を提供するイベントの周期パターンです。 ルーチン化できるものはすべてルーチン化し、開発者がソリューション開発の変動部分の管理に集中できるようにします。 「同期」は、複数のソリューションの視点を同時に理解し、解決し、統合することを可能にします。
以下の図1は、ケイデンスと同期のベネフィットを示しています。
ケイデンスと同期を組み合わせることにより、アジャイルチームは、固有の不確実性にもかかわらず、自信を持って進めるようになります。
ケイデンスと同期がフローを可能にする
ドン ライナーセンの『Principles of Product Development Flow』[1] のおかげで、ケイデンスと同期が効果的なソリューション開発になぜ重要であるかを説明することができます。 以下の表1と表2は、これらの原則とそれらを実装する関連SAFeプラクティスの一部をまとめています。
フローの原則: ケイデンス | SAFeプラクティス |
F5: 定期的なケイデンスを使用して、差異の蓄積を抑える | 定期的なPIインターバルでのプランニングは、差異を単一のPIタイムボックスに抑え、アジャイルリリーストレイン (ART) とソリューショントレインの予測精度を向上させます。 |
F6: 十分なキャパシティマージンを提供してケイデンスを可能にする | PIオブジェクティブを確実に達成するために、イノベーション&プランニング (IP) イテレーションには計画されたスコープがなく、スケジュールのマージン (バッファー) を提供します。 また、プランされているがコミットされていないオブジェクティブは、キャパシティマージン (スコープバッファー) を提供します。 これらが共に、PIのゴールを確実に達成する方法を提供します。 |
F7: ケイデンスを使用して、待ち時間を予測可能にする | フィーチャーがPIに含まれない場合でも、優先度が高い場合は、そのデリバリーを次のPI (または他の定期的なリリース) にスケジュールすることができます。 これにより、現在のインクリメントに過剰な仕掛かり中の仕事 (WIP) を負荷する衝動を避けることができます。 |
F8: 定期的なケイデンスを使用して、小さなバッチサイズを可能にする | 短いイテレーションは、イテレーションバッチ内のストーリーの数を制御するのに役立ちます。 フィーチャーのバッチサイズは、短いPIと頻繁なリリースによって制御され、システムの予測精度とスループットを高めます。 |
F9: 予測可能なケイデンスを使用して頻繁なイベントをスケジュールする | PIプランニング、システムデモ、インスペクト&アダプト (I&A)、ARTシンク、イテレーションプランニング、バックログリファインメント、そしてアーキテクチャディスカッションは、頻繁なイベントからベネフィットを得られます。 各イベントは、新しい情報の小さなバッチのみを処理する必要があります。 ケイデンスは、これらのイベントのトランザクションコストを下げるのに役立ちます。 |
表1: SAFeで適用されるケイデンスの原則
フローの原則: 同期 | SAFeプラクティス |
F10: 複数のプロジェクトの仕事を同期することで、規模の経済を活用する | 個々のアジャイルチームは、共通のイテレーションの長さに合わせています。 仕事はシステムデモとソリューションデモによって同期されます。 ポートフォリオビジネスとイネーブラーのエピックにより、共通のインフラストラクチャと顧客にとっての有効性が推進されます。 |
F11: キャパシティマージンにより、成果物の同期が可能になる | イノベーション&プランニング (IP) のイテレーションは、ARTやソリューショントレインのベロシティを落とさずに、最終的なPIシステムデモとソリューションデモを実施します。 |
F12: 同期したイベントを使用して、機能横断的なトレードオフを促進する | ARTとソリューショントレインのイベントは、顧客のフィードバックを同期させ、リソースと予算の調整、ミッションのベクトル合わせ、継続的な改善、およびプログラムの監督とガバナンスを可能にします。 また、コラボレーションとチームの構築を推進します。 |
F13: 待ち行列を減らすために、隣接するプロセスのバッチサイズとタイミングを同期する | チームは共通のタイムボックスおよび同程度のバッチサイズにベクトルを合わせます。 ARTとソリューションシステムチームは、定期的なケイデンスでの統合をサポートします。 新しいアイデアの迅速なデリバリーをファシリテートするために、バックログは短く、アンコミットのまま保持されます。 |
F14: ネストされたケイデンスは、短いケイデンスの整数倍にして仕事を同期させる | チームは、少なくともイテレーションの境界で統合し、評価します。 ARTとソリューショントレインは、PIの境界で評価します。 |
表2: SAFeで適用される同期原則
ケイデンスと同期は、仕事における固有のバラツキを管理するのに役立つ重要な概念です。ケイデンスと同期を同時に適用することにより、主要なビジネスステークホルダーが信頼できる、より信頼性の高いソリューション開発とデリバリープロセスを作り出します。
開発ケイデンスのベクトル合わせ
アジャイルチームは短いイテレーション (またはスプリント) のサイクルを通じて自然にケイデンスを適用します。 しかし、チームが一緒に働いていても、これらのケイデンスベースのサイクルは、図2が示すように、効果的な同期に役立っていないかもしれません。
図2が示すように、各チームはケイデンスに基づいて「スプリント」を行っていますが、ケイデンスは異なり、システムが計画通りに進化しているかどうかは不明です。 共通のケイデンスに基づいて仕事をし、定期的なシステムデモによる同期を追加することで、この懸念が解消されます。これは図3で示されています。
図3では、定期的なシステムデモから得られる客観的な証拠に示されているように、システムが真の意味での「スプリント」を行っています。
分野横断のプランニングと同期する
共通のケイデンスに加えて、定期的な分野横断のプランニング (例えば、SAFeのPIプランニング) は、ソリューションの様々な側面ービジネスと技術ーを一度に統合し、評価する機会を提供します。 その結果として、プランを頻繁に見直し、更新することでバラツキを管理しています。 つまり、図4が示すように、ケイデンスベースのプランニングが単一間隔内での小さなバラツキに抑えます。
頻繁でない、または一度きりのプランニングでは、実際のソリューションがプランと一致していることを確認する一貫したメカニズムがありません。 乖離は時間と共に積み重なり、その差異を修正するコストが法外になる可能性があります。 同期された分野横断のプランニングにより、実際に構築されたものがより頻繁にプランと比較され、動作するシステムの機能のデモを通じて検証されます。 差異が小さいため、次のインターバルでの修正は簡単で、コストも抑えられます。 このように、「プランは現実にずっと近い」ものになります。 新たな事実が明らかになるにつれて調整された現実的なプランに従って全員が仕事をすると、ビジネスの状況は大幅に改善されます。
まとめ
ソリューション開発の本質的な不確実性に対する治療法はありません。 もしあったとしても、それは病気よりも確実にひどいものでしょう。 しかし、ケイデンスと同期、そして定期的な分野横断のプランニングは、安全地帯での仕事に必要なツールを提供します。
詳しく学ぶ
[1] Reinertsen, Donald. The Principles of Product Development Flow: Second Generation Lean Product Development. Celeritas Publishing, 2009. [2] Kennedy, Michael. Product Development for the Lean Enterprise. Oaklea Press, 2003.最終更新: 2022年11月22日