It is hard to imagine a more stupid or more dangerous way of making decisions than by putting those decisions in the hands of people who pay no price for being wrong.
—Thomas Sowell, “Wake up, parents!” [1]
ビジネスオーナー
ビジネスオーナー (BO) は、投資収益率 (ROI)、ガバナンス、コンプライアンスに関して主なビジネス的な責任と技術的な責任を負う主要なARTステークホルダーです。
ビジネスオーナーは、利用に対する適合性を評価し、アジャイルリリーストレイン(ART)のイベントやソリューション開発に積極的に参加する重要なステークホルダーです。
詳細
SAFeの成功には、自己管理し、自己組織化するアジャイルチームとARTが不可欠です。リーンアジャイルの働き方は、従来のマネジメントの考え方に大きな変化をもたらします。もはや、リーダーやマネジメントは直接作業を監督したり、タスクを割り当てる必要はありません。代わりにミッションとビジョンを確立することで、リーダーシップを発揮し、意図を提示します。
SAFeビジネスオーナーは、チームをコーチングとスキル開発で支援することもありますが、基本的には実行権限をARTに分散させます。しかしながら、リーンアジャイルの働き方への変革は、リーダーやマネジメントを最終的な責任から解放するものではありません。BOは、組織の成長と人材、オペレーショナルエクセレンス、ビジネス成果に対して引き続き責任を負います。SAFeでは、BOの役割をARTを最適なビジネス成果にガイドする主要なリーダーとして定義しています。
ビジネスオーナーを特定するための質問は以下の通りです。
- ビジネスの成果について最終的な責任を持つのは誰なのか
- ARTの適切なソリューション開発を舵取りできるのは誰なのか
- 現在および将来のソリューションの技術的な能力について発言できるのは誰なのか
- プランニングに参加して、阻害要因を取り除くのを助け、開発、ビジネス、顧客を代表して発言すべきなのは誰なのか
- 全員を満足させるような計画は無いと知りつつ、一連のPIプランを承認し、擁護できるのは誰なのか
- ARTが組織の垣根を越えて他部門や他組織との取り組みを調整するのを助けられるのは誰か
これらの質問に対する答えは、ARTがバリューをデリバリーする能力において重要な役割を果たすBOを特定するのに役立ちます。また、これらのリーダー達の対応可能な時間と個性も考慮します。「リーダー達は優れたリーンアジャイルリーダーになれそうか?」、「リーダー達はこの役割を果たすことに興味がありそうか?」
可能な限り小さなビジネスオーナーのチームから始めて、必要な説明責任、スキル、知識、専門知識を持つ人物が不足していることが明らかになった場合は、メンバーを追加するのが最善です。ビジネス志向の人材と技術志向の人材の両方を適切に組み合わせます。BOチームのメンバーがニーズに応じて変わることは合理的なことです。
責任
図1 に示すように、有能なビジネスオーナーは積極的に関与し、SAFeの責任を日々果たします。
ビジネスオーナーチームの一員となるべき人に関する正確なガイドラインはありませんが、多くの場合、ビジネスオーナーチームには以下の役割や肩書きを持ちます。
- ゼネラルマネージャーまたは事業部門のマネージャー
- プロダクトマネージャーまたはソリューションマネージャー
- エンタープライズアーキテクト
- 経営陣
- 執行役員
- エンジニアリング部門のシニアリーダー
- 顧客(オーダーメイドのソリューションの場合)
以下のセクションでは、ビジネスオーナーの職務について説明し、アジャイルチームとトレインが最高の仕事をできるように支援しながら、ビジネスオーナーがその義務を果たせるようにします。
手本を示す
ビジネスオーナーは、特定のARTによってもたらされるビジネスバリューに対する説明責任を共有するリーンアジャイルリーダーです。SAFeの採用に必要な文化的な変革を推進する最も重要で効果的な手法は、リーダーがビジネスアジリティの行動と考え方を内面化し、模範を示すことです。このようなリーダー達は、自分たちの示す方向に続くよう他者を促し、リーダーの示す手本を自分たちの成長の過程に取り入れるよう動機づけます。これを達成するために、ビジネスオーナーは以下のことを実践します。
- 新しい行動の手本として務める - リーンアジャイルの原則と実践に従って行動し、ARTと他者が従うべき、求められる行動の新規範となります。この規範はSAFeの知識と経験の不足を補うのに役立ちます。
- SAFe採用のビジョンを伝える - ビジネスニーズ、緊急性、変革のビジョンを頻繁に伝えます。BOは、SAFe実装プランの策定、変革バックログの優先順位付け、1 つ以上のARTの変革の進行状況を追跡するメトリクスの確立に関与します。
- リーンアジャイルセンターオブエクセレンス(LACE)と積極的に関わる - チームが解決できない問題に対処します。解決できない問題は、多くの場合、LACEがコントロールできる範囲を超えています。例えば、施設の変更、資金調達、採用、購買の権限が必要にな場合があります。
- 変革に抵抗する人々の懸念を解消する - 共感と思いやりを示し、人々の不安や心配を解消し、問題を迅速かつ効果的に解決して、変革を阻む可能性のある抵抗を克服するのを助けます。
- チェンジエージェントとして行動する - 情熱的に伝え、心から信じ、将来の変革ビジョンへのコミットメントを示します。人々は、変革に求められる行動を規範とするリーダーの行動する後ろ姿を見て、変革の擁護者となり、新しい行動により素早く適応します。BOは、受け入れがたい行動を容認せず、ミッションとビジョンを持って、変化に抵抗したり恐れたりする人々を奮起させます。BOは、人々が新しい働き方を理解し、それが自分自身、他のARTメンバー、組織にどのような利益をもたらすかを理解するのを手助けします。これらのリーダーは、組織とARTの全体的な利益のために、役割、実践、プロセスを適応させることをコミットすることで、人々を安心させます。
仕事場での心理的安全性が欠如すると、ビジネスに重大な影響を与える可能性があります。人々がうまくいっていないことについて安心して話すことに抵抗を感じる場合、その組織には失敗を防ぐための備えができていません。結局のところ、秘密を解決することは誰にもできません。こうした恐れは多くの場合、従業員の意欲をそぐことになり、すべての人材の強みを活用する機会コストが発生します。人々は、実際に変化をもたらすアイデアを生み出し、実行に移すためには、安心して発言し、素朴な質問をし、新しい仕事のやり方を試しては失敗でき、安心して反対できる必要があります。
対照的に従業員が積極的に取り組むと、組織のビジョン、バリュー、存在意義を受け入れるようになります。従業員らは情熱的な貢献者となり、革新的な問題解決者となり、信頼できる仲間となります。
リーンポートフォリオマネジメントと連携する
リーン ポートフォリオマネジメント(LPM) は、ビジネスの成果に責任があるエグゼクティブ達によって運営されますが、ビジネスオーナーは多くの場合、このプロセスに深く関与します。ビジネスオーナーの中には LPMエグゼクティブを務める人もいますが、次のような活動にある程度関与している人がほとんとです。
- 戦略&投資ファンディング - ビジネス目標を達成するために必要なソリューションを創り出し維持するために、ポートフォリオと個々のバリュー ストリームのベクトルを合わせ、資金が確保されるよう支援します。
- アジャイルポートフォリオオペレーション - ビジネスオーナーは、バリューストリームとARTが顧客に適切なものを提供できるよう支援する責任があります。また、直接的または間接的にLACEを支援し、関心のある分野の中に実践コミュニティ(CoP)を育成することもできます。
- リーンガバナンス - ビジネスオーナーは、ARTバックログの優先順位付けとバリュー ストリームの経済に直接従事します。バリューストリームに対する支出、監査、コンプライアンス、経費の予測、測定についての監督や意思決定を務めることもあります。
- 折に触れてエピックオーナーを務める - 場合によっては、ビジネスオーナーが、その分野の知識、経験、権限から恩恵を受ける取り組みの最初のエピックオーナーを務めることができます。
- 参加型予算編成 - ビジネスオーナーは、ポートフォリオ全体の予算をバリューストリームに割り当てる際にLPMを積極的に支援します。
優先事項とPIプランニングのベクトルを合わせる
ビジネスオーナーは、ARTに影響を及ぼす戦略テーマを理解し、磨きをかける責任があります。BOは、現在の企業、ポートフォリオ、バリューストリームのコンテキストの知識を持っており、ソリューションビジョンとロードマップの推進やレビューに関与しています。PI中にBOが継続的に関与することは、ARTの予算支出に対する重要なガードレールの役目を果たします。優先事項とPIプランニングのベクトルを合わせるには通常、以下の活動が含まれます。
PIプランニング前は、ビジネスオーナーにとって忙しい時期です。BOの責任は以下の通りです。
- バックログリファインメントに対するインプットを提供する - 活動に参加し、ポートフォリオの戦略テーマとバックログのベクトルを合わせます。
- ビジネス目標を理解できるようにする - ビジネス目標が、リリーストレインエンジニア(RTE)、プロダクトマネジメント、システムアーキテクト、その他のBOを含むトレインの主要なステークホルダーによって合意されるようにします。
- ビジネスコンテキストを伝える準備をする - ビジネスの現状、ポートフォリオビジョンを説明する準備と、既存のソリューションが現在の顧客ニーズをどの程度効果的に満たしているのか、BOらの視点を説明する準備をします。
PIプランニングにおけるビジネスオーナーの役割の重要性は、どれだけ強調してもし過ぎることはありません。以下の活動を行います。
- ビジネスコンテキストとビジョンを提示する - 定義済みのPIプランニングのアジェンダにある時間枠の中でビジネスコンテキストを共有します。このコンテキストには、ビジネスの状態、市場のリズム、マイルストーン、サプライヤーなどの重要な対外的な依存関係が含まれる場合があります。
- 重要なART PIプランニング活動に積極的に関与する - ドラフトプランレビューに参加し、チームのPIオブジェクティブにビジネスバリューを割り当てます。そしてファイナルプランを承認します。
- ドラフトプランとファイナルプランをレビューする - ビックピクチャーを理解し、チームオブジェクティブが全体として現在のビジネス目標を達成するかどうかを判断します。BOらは効果的な質問をし、ソリューションインテントにベクトルを合わせます。
- 重要な対外的なコミットメントと依存関係に注意を払う - 依存関係のマネジメントを促進します。そして依存関係の削減または排除をサポートします。
- プランニング中に積極的に巡回する - ビジネスの優先順位をチームに伝え、トレインの主要なオブジェクティブに関してステークホルダー間の合意とベクトルが合っている状況を維持します。
- マネジメントレビューと問題解決に参加する - ビジネスオーナーは、問題解決ミーティングにおける重要なステークホルダーです。BOらはスコープを見直し、調整し、問題を解決し、必要に応じて妥協します。
- ソリューショントレインのプランニングに参加する - 必要に応じて、BOはプリプランに参加し、ARTのプラン調整を助け、調整と提供の活動の間にサポートします。
さらにビジネスオーナーが、PIプランニング中に計画されたビジネスバリューを割り当てる際、チームと最も重要なステークホルダーであるBOとの間に、不可欠な対面での対話が促されます。この活動は、アジャイルチームとBOとの間の個人的な関係を築き、相互のコミットメントを必要とする共通の懸念事項を特定し、ビジネス目標とそれらのバリューをよりよく理解するための機会です。図2は、あるチームのPIオブジェクティブと、BOによって割り当てられたビジネスバリュー(BV)の例を示しています。
ビジネスオーナーは、1(最低)から10(最高)の尺度を使用します。通常、顧客が直面しているオブジェクティブに対して最も高いバリューを割り当てます。しかし、アーキテクチャやその他の懸案事項が、将来のビジネスバリューを生み出す上でチームのフローベロシティを高めることを知っている技術専門家のアドバイスも求める必要があります。イネーブラーに適切なビジネスバリューを設定することは、フローベロシティを促進するのに役立ち、チームが正当な技術的課題に対処するというコミットメントを示します。
SAFeの顧客から「なぜ、BVにフィボナッチ数を使わないのか」と、しばしば尋ねられます。答えは簡単です。10から1の尺度は誰もが理解できる数字の範囲であり、ビジネス指向のBO、技術メンバー、ARTステークホルダー間の摩擦やミスコミュニケーションを減らすことができます。最も簡単な方法は、個々のオブジェクティブの中で最も高いもの(通常は「確定済み」のコミットメントや必須項目)に10を割り当て、そこから尺度を下げることです。1つのチームに対して多くのPIオブジェクティブに10をつけることは、オブジェクティブの優先順位付けが不十分であることを示します。事実上、BOの知識や経験の恩恵を受けることなく、チームに対する優先順位付けを否定することになります。
ビジネスの成果を実現する
ビジネスオーナーの仕事は、PIプランニングが終わっても、完了するわけではありません。BOらはソリューションのデリバリーを確実に成功させるために継続的な役割を担っています。ビジネスオーナーの典型的な役割は以下の通りです。
- ベクトルを一致させ続ける - 優先順位やスコープが必然的に変化する中、積極的にビジネスと開発の間のベクトルを一致させ続けます。
- MVP定義の検証を手助けする - 実用最小限のプロダクト(MVP)のデリバリーに基づいて、ARTやソリューションエピックの方針転換または開発継続の決定をガイドします。
- システムデモとソリューションデモに参加する - システムデモとソリューションデモに積極的に参加し、進捗状況を理解し、フィードバックを提供します。
- アジャイルチームのイベントに参加する - 必要に応じて、イテレーションプランニング、イテレーションレビュー、イテレーションレトロスペクティブなどのチームイベントに参加します。
- 阻害要因に積極的に対処する - トレインのリーダーやステークホルダーの権限を超えてエスカレーションする阻害要因の解決を手助けをします。
- リリースマネジメントに参加する - リリースガバナンス(リリースオンデマンドで説明)における重要なステークホルダーとしての役割を果たし、ソリューションのリリース時期を決定します。具体的には、ステークホルダー達は、スコープ、品質、デプロイメントの選択肢、リリース、市場に関する考慮事項に焦点を当てます。
たゆまぬ改善を支持する
インスペクト&アダプト(I&A)イベントは、ART全体が進捗状況を振り返り、直面している組織的な阻害要因を特定するためのケイデンスベースの機会で、その多くはBOの関与を必要とします。イベント中、BOは計画したバリューと達成した実績のバリューを比較評価した上で、I&Aの問題解決ワークショップに臨みます。さらにビジネスオーナーはリーンアジャイルリーダーとして以下のことを行います。
- 継続的にムダと遅延の排除に注力する - 原則#6 「途切れることのないバリューフローを実現する」の採用を促進し、バリューストリームマネジメント、8つのフローアクセラレーター、6つのフローメトリクス(フロー配分、ベロシティ、時間、負荷、効率、予測精度)の採用を促します。
- やる気を失わせる方針やプロセスを排除する - I&Aの問題解決ワークショップに積極的に参加し、リーンアジャイルマインドセットとベクトルが合わず、ARTのコントロール範囲外の組織的な課題、方針、プロセスを特定し、排除します。
- 他者を触発し動機づける - 変革が必要な理由を(頻繁に)効果的に伝え、そうすることで、危機意識を持って変革に賛同を得るために、人々を触発し動機づけます。
- たゆまぬ改善を高く評価する生産的な文化を創り出す - 適切な行動を示して、病的(否定的、権力志向)かつ、官僚的(否定的、規則志向)な文化から、リーンアジャイルマインドセットを開花させるために必要な肯定的でパフォーマンス志向の文化へと変革するのを支援します。
- イノベーションを生み出すための時間と空間をチームのために用意する - IPイテレーションの活用を促進し、チームがイノベーション、改善活動、学習に取り組むための規則的で、ケイデンスベースの機会を用意します。多くの場合、こうした取り組みは、継続的でインクリメンタルなバリュー提供のパターン(手順や方法)に取り入れるのが困難です。
- 継続的デリバリーパイプラインへの投資促進を支援する - ARTの対応力とソリューションの品質を改善するために、プロセスと継続的デリバリーパイプラインへのインフラストラクチャの強化をサポートします。
いくら強調してもしすぎることはありません。SAFeを採用する企業にはビジネスオーナーの積極的な参加が不可欠です。
詳しく学ぶ
[1] Sowell, Thomas. “Wake up, parents!” Jewish World Review, August 18, 2000.
最終更新: 2023年7月3日