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Find people who share your values, and you’ll conquer the world together.

—John Ratzenberger & Joel Engel, We’ve Got it Made in America [1]

コアバリュー

ベクトルを合わせる、透明性、人々を尊重する、そしてたゆまぬ改善という4つのコアバリューは、SAFeの効果にとって鍵となる基本的な信念を表しています。

これらの原則は、SAFeポートフォリオに参加する全員の行動とアクションを導くのに役立ちます。 権威ある立場にある人々が、自分たちの言葉やアクションを通してこれらのバリューを手本を示すことで、組織の他のメンバーがこれらの理想を受け入れやすくなります。

詳細

SAFeは、アジャイル、リーン、システム思考、DevOps、バリューストリームマネジメントなど、高く評価されている知識体系に基づいてビジネスアジリティを達成するためのシステムです。 これらの実践が世界最大規模の組織による成功した採用を通じて、ビジネスアジリティへとつながることが証明されています。 これらの包括的な成功パターンは、SAFeを深く広範でスケーラブルなものにします。 しかし、その核心において、SAFeは4つの深い信念、つまり「ベクトルを合わせる」、「透明性」、「人々を尊重する」、そして「たゆまぬ改善」に最高のバリューを置きます。 これらの信念は、SAFeの実践にとって基盤となるもので、これらがなければフレームワーク内の実践は、必然的に「Go SAFe」を決定するきっかけとなった意図されたビジネスの成果を提供することはできません。 これらのコアバリューは図1で示され、以下のセクションで説明されています。

Figure 1. SAFe's four core values
図1 SAFeの4つのコアバリュー

ベクトルを合わせる

アラインメントがずれた車のように、ベクトルを合わせられていない企業は深刻な問題を抱えることがあります。 それらは操縦が難しく、方向転換に対する反応も良くありません。[2] 皆が向かう先が明確であっても、その乗り物がその目標に到着する可能性は低いでしょう。

新たな働き方としてSAFeを採用する組織にとっても同じことが言えます。 リーンアジャイルでは、持続可能な最短のリードタイムでバリューを提供するために多くの決定が分散化されます。(SAFe原則#9を参照) しかし、いろいろな決定が組織を異なる方向に引っ張ると、大幅な遅延と品質に関する懸念が生じます。 その解決方法は、企業の最上部からSAFeの各レベルを通じて、最終的には各個人の貢献者に至るまで、明確で一貫したベクトルを合わせることです。 スピードと品質を伴ったバリューのデリバリーは、全員のベクトルが一致しているときに常に達成できます。

ここでは、SAFeでベクトルを合わせ、維持する具体的な方法を示します。

ビジョン、ミッション、戦略を伝える - ベクトルを合わせることは、企業のビジョン、ミッション、戦略を常に保持することから始まります。 例えば、これらの要素をPIプランニング中のビジネスオーナーのブリーフィングに含めることは、ARTの仕事が企業のより高い目標と一致していることを確認する一つの方法です。

戦略を実行につなげる - 次のステップは、SAFeポートフォリオ内の全員が、企業にとって最も重要な事柄に自身の仕事を調整することを確認することです。 戦略テーマは、ビジネス戦略を具体的なガイダンスに明示的に変換し、ポートフォリオビジョン、リーン予算、エピックを企業の優先事項にベクトルを合わせ、その後ポートフォリオ内のチームとトレインの仕事の情報を提供します。

共通の用語を用いて話す - 組織が重要な役割、プロセス、イベント、アーティファクトをどのように説明するかに一貫性がない場合、ベクトルを合わせることは難しくなります。 SAFeは、共通の言語を提供し、バックログ、ARTボード、ソリューションインテント、ポートフォリオビジョンなどの実践を推進し、仕事とその結果であるソリューションとの共通の視点を維持します。

常に理解をチェックする - ベクトルを合わせるためには、定期的な補強が必要です。 SAFeのイベント(イテレーションプランニング、バックログリファインメント、PIプランニング、ARTシンク、ポートフォリオシンク)およびSAFeのアーティファクト(バックログ、チームボード、ARTボード、ポートフォリオキャンバス)は、SAFe組織がベクトルを合わせるのに役立つツールの一部です。 対面での会話も理解をチェックするためには不可欠です。

顧客を理解する - SAFeは、インプットと多様なステークホルダーや情報源からの視点を集めるために、顧客中心の考え方とデザイン思考を用いた継続的な探索を推進します。これにより、バックログ項目が最も重要な声、つまり顧客の声と一致することを確認します。

透明性​

ソリューションの開発は複雑です。 しばしば、物事はうまくいかなかったり、計画通りに進まなかったりします。 オープン性がなければ、事実はあいまいになり、意思決定は推測に由来した仮定とデータの欠如に基づくものになります。 このような状態を修正することはできません。

透明性を確保するためには、信頼が必要です。 信頼は、特に困難な時期に、皆が誠実に行動することを互いに確信して頼りにできる際に存在します。 信頼がなければ、ハイパフォーマンスチームやトレインを編成すること、または合理的なコミットメントを作成し、それを満たすために必要な自信を構築する(または再構築する)ことは不可能です。 信頼を基盤とする環境は、楽しく、やる気を引き立てるものでもあります。 単純に言えば、SAFeが推進する新しい働き方は、透明性と信頼の文化がなければ成功するのが難しいでしょう。

次のアクションは、SAFeエンタープライズにおいて透明性​と信頼の文化を構築するのに役立ちます。

信頼を基盤とする環境を構築する - 信頼はただの感情ではなく、アクションが必要です。 組織のすべてのレベルの人々は、他人を信頼し、自身も信頼できる人物であることが求められます。 それはコミットメントを作り、守ることを意味します。 そして、それはコントロールを放棄し他人がコミットメントを作って守るということを信頼することを意味します。

直接、率直、正直に対話する - SAFeでよく使われる教えは「事実は友好的である」ということです。 問題は隠されている場合、解決することはできません。 信頼を基盤とする環境では、情報は飾り立てや非難なしに共有され、問題をできるだけ迅速かつ効果的に解決するために利用されます。

失敗を学びのチャンスに変える - 人々は成功よりも失敗からより多くを学ぶことがよくありますが、これはその失敗を報復や罰せられる恐怖なしに認めることができるときだけ効果的です。 ミスを「学習の瞬間」[3]として捉え、エラーを迅速に明らかにし解決するために必要な心理的安全性を作り出します。

仕事を可視化する - すべての仕事を可視化することは、透明性​にとって不可欠です。 SAFeでは、これはすべてのレベルでの仕事が継続的に洗練されたバックログに記録されることから始まります。 他のツール、例えばカンバンボード、ARTボード、PIオブジェクティブ、ソリューションインテント、コラボレーションツール、共有知識リポジトリなどは、仕事を可視化し、すべての人がアクセスできるようにする目的をサポートします。

必要な情報にすぐアクセスできるようにする - 見つけるのが難しい情報は、その知識が意図的に隠されているのと同じ影響を持ちます。 真の透明性には、必要な情報がすべての人々によって容易にアクセスでき、その場所とアクセス方法がよく知られていることが求められます。 その場所が不明確な場合に互いに助け合って必要な情報を見つけるための意欲と、情報へのアクセスを可能な限りスムーズにするためにシステムを絶えず改善する意欲が必要です。

人々を尊重する

「クルマづくりの前に人づくり」

—広く引用されている元トヨタ会長、張 富士夫氏による言葉

リーンアジャイルのアプローチはそれだけでは実装せず、また実際の仕事も行いません。 実際には、人々がすべての仕事を行い、人々がその仕事からすべてのバリューを受け取っています。 企業がSAFeでバリューを創出する方法の中心となるのは人々であるため、新しい働き方のすべての側面において、人々を尊重することを考慮しなければなりません。

尊重は基本的な人間のニーズです。 尊重されると、人々は自分たちの実践を進化させ、創造性を発揮することが可能になります。 逆に、尊重が欠けていると感じた場合、人々は他の人、自身のチーム、または自身の組織にコミットすることはできません。 人々を尊重しない状況が広範囲に及び容認されてしまうと、それは有害な職場環境、低いパフォーマンス、そして高い離職率[4]につながってしまいます。

以下の提案は、組織で人々を尊重する文化を育てるためのいくつかの方法を提供します。

人間的であることを大切にする - これは、リーンで説明されている「人々を尊重する」の文字通りの意味です。 もう少し説明すると、これは個々の創造性を高め、チームワークをバリューとする一方で、相互の信頼と尊重を尊ぶ企業文化を育てることを意味します。[5]

人々や意見の多様性を大切にする - 尊重を示す別の方法は、さまざまな個人的、専門的背景を持つ人々を含む組織を構築することです。 ただ多様な労働力を雇うだけでは不十分です。 人々を尊重するとは、自分自身とは異なる視点や見解を聞き、価値を認めることを要求します。

コーチングとメンタリングを通じて人材を育てる - 人々を尊重するということは、基本的な道徳的義務を超えています。 その実用的なビジネス上の意味合いは、「良いプロダクトを作るためには、良い人材を育成することが必要である」ということです。 人々の成長を助ける一つの方法は、組織内外の他の人々とのつながりを促進し、それぞれの人々の開発のジャーニーに貢献できるようにすることです。

「あなたが生産したものを消費する誰もがあなたの顧客である」ことを受け入れる - リーンとアジャイルの手法は顧客中心のものであり、どちらも顧客がバリューの最終的な受益者であることを認識しています。 また、リーンは明確に、組織の内部の人々を含む、あなたの仕事のアウトプットを使用するすべての人々が顧客であるという事実を扱っています。 尊重と共感をもって顧客を扱うことで、彼らの実際の問題に対処するプロダクトとサービスが生み出されます。

相互のベネフィットに基づいて長期的なパートナーシップを構築する - 世界で最も複雑なシステムを構築する際には、多くのサプライヤーが必要です。 サプライヤーに対する尊重とは、彼らを顧客と同じ高い評価で見ること、彼らに挑戦し、彼らの改善を助けることを意味します。 これは、いじめや圧力戦術によってではなく、相互のベネフィットと説明責任に基づく「ウィンウィン」のような長期的な関係を築くことによって行われます。

たゆまぬ改善

リーンの中心的な原則の一つは、常に完璧を追求することです。 完全を求めることは達成不可能であっても、それはプロダクトやサービスの連続的な改善を推進します。 そのプロセスの中で、企業はより少ない金額で、より多く、より良いプロダクトを作り出し、より満足した顧客を持つことで、収益を高め、利益を増やしていきます。

しかし、改善には学習が必要です。 組織が直面する問題の原因とソリューションが明確で容易に特定できることは稀です。 たゆまぬ改善は、小さな反復的でインクリメンタルな改善と実験の一連の流れに基づいています。これにより、組織は問題に対する最も有望な答えを学び取ることができます。

以下の手法は、SAFeエンタープライズでたゆまぬ改善の文化を構築するのに役立ちます。

恒常的な危機意識を創出する - 改善アクティビティは組織の生存に不可欠であり、それには優先順位、可視性、およびリソースを与えるべきです。 それには、組織の競争相手よりも優れた方法で顧客の問題を解決するプロダクトやサービスを提供することにより、顧客に対してバリューを提供することに強い焦点を当てることが求められます。 緊急性をもって絶えず改善することを怠り、自己満足に陥った組織は、顧客を失うリスクがあり、最終的にはビジネスから撤退してしまう可能性があります。

問題解決の文化を構築する - 問題解決は、たゆまぬ改善を推進します。 それは、現在の状態と望ましい状態の間にギャップが存在することを認識し、目標の状態を達成するために反復的なプロセスを続けていくことです。 反復的なPDCAサイクルは、小さな調整だけでなく、画期的なイノベーションにも結び付く反復的な問題解決のプロセスも提供します。 目標は、「誰もが常に改善する」文化を持つことです。

頻繁な振り返りと適応 - SAFeでは、絶え間なく入ってくるバックログの仕事を定期的に一時停止させ、すべてのレベルでのプロセスの欠点を公に特定し、対処することが重要です。 改善は、他のストーリーやフィーチャーと同様に管理し、優先順位をつけるべきです。なぜなら、改善は実際の仕事を必要とし、チームやトレインの実際のキャパシティを消費するだけでなく、ポートフォリオのプロセスをガイドする人々にとっても必要となるからです。

事実に基づき改善する - 意見や推測に基づく改善は、真の根本原因ではなく症状に焦点を当てる可能性が高くなってしまいます。そのため 改善の結果は、経験的な証拠に焦点を当てて、客観的に測定されます。 これは組織が問題を解決するために必要な仕事により集中し、非難をすることことや、元の問題を解決することのない改善を追求することを減らすのに役立ちます。

イノベーションのための時間と場所を提供する - 改善は、個々のチーム、サイロ、またはサブシステムを最適化するのではなく、持続可能なバリューフローを生み出すシステム全体の効果を高めるように設計されるべきです。 すべてのレベルに属する全員が改善思考を受け入れるべきですが、一つのエリア、チーム、または分野での改善は、システム全体に悪い影響を与えないように行うべきです。 SAFe原則#2 システム思考を適用するは、この考えをさらに展開します。

リーダーシップの必要性

SAFeのコアバリューを一貫して適用するには、リーンアジャイルリーダーシップの積極的なサポートと継続的な学習文化が必要です。 SAFe組織のリーダーは、コアバリューとリーンアジャイルマインドセット、SAFe原則、実践、そして顧客に対するバリュー創造への志向を組み合わせて手本を示すべきです。 これらのマインドセットと動作をモデリングすることは、チームとそのステークホルダーにとって持続的で意味のあるバリューに基づく文化を作り出します。


詳しく学ぶ

[1] Ratzenberger, John, and Joel Engel. We’ve Got it Made in America: A Common Man’s Salute to an Uncommon Country. Center Street, 2006.

[2] Labovitz, George H., and Victor Rosansky. The Power of Alignment: How Great Companies Stay Centered and Accomplish Extraordinary Things. Wiley, 1997.

[3] Ridge, Garry. The Learning Moment. Retrieved October 10, 2023, from https://thelearningmoment.net/welcome-to-learning-moment/

[4] Hu-Chan, Maya. The Basic Human Need Some Companies Fail to Meet. Inc.com, October 30, 2020. Retrieved October 10, 2023, from https://www.inc.com/maya-hu-chan/the-basic-human-need-some-companies-fail-to-meet.html

[5] Miller, Jon. Exploring the “Respect for People” Principle of the Toyota Way. Gemba Academy, May 16, 2017. Retrieved October 10, 2023, from https://blog.gembaacademy.com/2008/02/03/exploring_the_respect_for_people_principle_of_the/

Liker, Jeffery K. Developing Lean Leaders at All Levels: A Practical Guide. Lean Leadership Institute Publications, 2014.

最終更新: 2023年10月10日