Continuous attention to technical excellence and good design enhances agility.
—Agile Manifesto [1]
チーム&テクニカルアジリティ
定義: チーム&テクニカルアジリティ (TTA) のコンピテンシーは、アジャイルリリーストレインのハイパフォーマンスなアジャイルチームが、顧客に対する高品質なソリューションを作り上げるために使用する重要なスキル、原則、プラクティスを説明します。
チーム&テクニカルアジリティ (TTA) は、ビジネスアジリティの7つのコアコンピテンシーの1つです。コアコンピテンシーごとに固有のアセスメントが用意されていて、企業はこのアセスメントを通じて自社の習熟度を評価できます。「メジャー&グロー」の記事では、こうしたコアコンピテンシーアセスメントと推奨される改善の機会を取り上げています。
なぜチーム&テクニカルアジリティなのか?
アジャイルチームは、企業の顧客にバリューを提供するビジネスソリューションを創造し、サポートします。このため、デジタル時代に組織が成功できるかどうかは、もっぱら組織を構成するチームが顧客のニーズを確実に満たすソリューションを提供できるかどうかにかかっています。チーム&テクニカルアジリティは、ビジネスアジリティの真の要です。図1に示すように、このアジリティは3つの特性からなっています。
- アジャイルチーム – ハイパフォーマンスで機能横断的なチームが、効果的なアジャイル原則とプラクティスを適用することでコンピテンシーを確立します。
- 複数のアジャイルチームで構成されたチーム – アジャイルチームは、アジャイルリリーストレイン (ART) というコンテキストの中で機能します。ARTは、共有ビジョンと共通の方向性を提示し、最終的にソリューションという成果を提供する責任を担う、長期にわたって活動する複数のアジャイルチームで構成されたチームです。
- 作り込み品質 – どのアジャイルチームも、定義されたアジャイルプラクティスを実践することで、現在および将来のビジネスニーズをサポートする、高品質で綿密にデザインされたソリューションを生み出します。
これら3つの特性は、バリューストリームを推進する人々を組織し、その指針となる互いに補完し合い、依存し合う力です。
アジャイルチーム
アジャイルチームは、アジャイル開発の基本的な構成要素であり、TTAコンピテンシーの1つ目の特性です。SAFeにおけるアジャイルチームは、10人以下の機能横断的なグループで、イテレーションを通じてバリューを定義し、構築し、テストし、顧客に提供します。こうしたチームには、自分たちの仕事を管理する権限と説明責任が与えられており、それが生産性を向上させ、市場投入までの期間を加速します。
各アジャイルチームは、SAFeスクラム、SAFeチームカンバン、またはそのハイブリッド手法を採用することで、同期とデリバリーケイデンスを規定します。選択した手法を用いて、共有バックログを管理し、インクリメンタルに提供し、必要なアーキテクチャランウェイを構築し、頻繁に顧客とステークホルダーからフィードバックを受けます。
アジャイルチームの主なオブジェクティブは、優れたプロダクトのデリバリーです。図2に示すように、アジャイルチームは、5つの主要な責任分野に重点的に取り組むことで、これを達成します。
それぞれの責任分野について、以下にまとめました。
- 顧客との連携 – アジャイルチームは、顧客特有のニーズを把握し、その知識をプロダクト開発の指針として活用します。また、顧客に共感し、その知識をもとにプロダクトマネジメントと協力して、プロダクトのデザインおよびソリューションの実験を行います。
- 仕事を計画する – アジャイルチームは自分たちの仕事を計画し、PIプランニングに直接貢献します。チームバックログを維持管理し、イテレーションプランニングおよびバックログリファインメント期間中に優先順位を調整し、PIプランニングで中心的な役割を果たし、自分たちの仕事をARTバックログの項目とリンクさせます。
- バリューをデリバリーする – アジャイルチームは、顧客を喜ばせる素晴らしいプロダクトの提供に必要なあらゆるスキルやリソースを備えています。さまざまな同期イベントやデモを通じて、常にARTとベクトルを合わせ、頻繁な変更の統合、テスト、デプロイ、リリースを可能にする継続的デリバリーパイプラインを確立します。
- フィードバックを得る – アジャイルチームは、提供したプロダクトやテクノロジーのバリューを理解するため、定期的に顧客からのフィードバックを求めます。自分たちと顧客との距離を縮められるようなフィードバックの方法を見つけ、他のチームやアーキテクトと協力して、実装に関する判断を継続的に検証します。
- たゆまず改善する – アジャイルチームは、パフォーマンスを評価し、ビジネスアジリティの実現に貢献するフロー、コンピテンシー、成果のメトリクスを追跡します。こうした測定の活用により、継続的なレトロスペクティブを推進し、新たなパフォーマンスの目標を定義し、改善を実装します。
アジャイルソフトウェア開発宣言は、アジャイルチームが自分たちの責任を果たす上での指針となるものです (図3)。もともとはソフトウェアチームを想定して考案されたものですが、そこに示されるバリューは、テクノロジーおよびビジネスの両分野を通じたあらゆるタイプのアジャイルチームに当てはまります。
バリューのデリバリーは、多くの場合、従来の組織の垣根を超えた取り組みです。このため、アジャイルチームは複数の専門分野からなり、図4に示すように、バリューを提供するのに必要なさまざまな機能分野の人材とスキルをすべて含んでいます。チームメンバーはフルタイムでチームに専念するため、共通の目的が生まれ、フローが強化されます。
アジャイルチームには、2つの専門的な役割があります (図5)。プロダクトオーナーは、チームバックログが顧客のニーズに沿ったものとなるようにし、チームが最大限のビジネスバリューを提供できるように指導します。スクラムマスター / チームコーチは、チームのサーバントリーダーであり、コーチです。合意したアジャイルプロセスを促進し、迅速なフローを可能にする環境を促進します。
アジャイルチームはそれぞれ、以下の4つのトポロジーのいずれかに位置づけられ、これによってバリューストリームにおけるチームの役割が規定されます。
- ストリーム適応チーム – ワークフローに沿って編成され、顧客またはエンドユーザーに直接バリューを提供できるアジャイルチーム
- 複雑なサブシステムチーム – 高度に専門的なスキルと専門知識を必要とする特定のサブシステムを中心に編成されたアジャイルチーム
- プラットフォームチーム – 他のチームにサービスを提供するプラットフォームの開発とサポートを中心に編成されたアジャイルチーム
- イネーブリングチーム – 新しいスキルやテクノロジーの習熟度の向上に向けて、他のチームをサポートするために編成されたアジャイルチーム
複数のアジャイルチームで構成されたチーム
企業規模のソリューションの構築には、単一のアジャイルチームが提供できる以上のスコープとスキルの幅が必要です。1つのチームが合理的な期間内に大規模なシステムを構築し、提供することは不可能です。さらに、複雑なシステムでは、1つのチームには収まりきらない幅広い専門スキルが必要になります。このため、複数のアジャイルチームが1つのアジャイルリリーストレインの構成メンバーとして協力し合い、ARTはビジネス機能の垣根を超えた活動によって、1つまたは複数のソリューションを提供します (図6)。
1つまたは複数のバリューストリームを中心に編成されるARTは、共通のビジネスおよびテクノロジーのミッションを軸にチームのベクトルを合わせます。ARTの存在意義は、顧客に価値あるソリューションを提供することであり、そのためには、5つの主要な責任分野 (図7) に該当する幅広いスキルが必要です。
ARTの責任分野は、アジャイルチームの責任分野とまったく同じです。ただし、ARTの場合は、これらの責任分野がバリューストリーム全体で大規模に適用され、魅力的なビジネスバリューを備えた統合済みソリューションを提供します。また、複数のアジャイルチームと同様に、複数のARTも協力して計画、コミット、実行、改善を行います。
作り込み品質
作り込み品質は、アジャイルチームおよびARTのアウトプットが確実に適切な品質基準を満たすようにする一連のプラクティスです。これらのプラクティスでは、リリース前に品質を検査するだけではなく、開発中にプロダクトやサービスに品質を作り込むことが推奨されます。品質を作り込むことで、バリューストリームにおける手直しに伴う労力とコストが減り、バリューのデリバリーが大幅に加速します。
図8に示すように、作り込み品質は、5つの主要な分野に分類されるいくつかの専門化されたプラクティスで構成されます。このセクションの以降のパートでは、これらの要素をまとめます。
品質は、コンテキストが違えば、それぞれ異なる方法で評価され、適用されます。例えば、多人数参加型オンラインゲームと透析機に、同じエンジニアリング基準は適用されません。同様に、合併または買収契約と自動走行車両のナビゲーションシステムの開発では、制約を受ける品質要件はそれぞれ異なるでしょう。SAFeでは、こうした大きなコンテキストの違いに配慮すべく、作り込み品質のプラクティスを5つの分野に分類しています。
- ビジネス機能 – HR、マーケティング、財務、営業など、テクノロジーを活用したソリューションのデザインを主な機能としていない分野は、それぞれ固有の品質基準によって統制されています。その例として、会計基準、マーケティングスタイルガイド、雇用法などが挙げられます。
- ソフトウェアアプリケーション – 作り込み品質を備えたソフトウェアベースのソリューションの開発では、機能要件、非機能要件、そしてコンプライアンスに関する要件に入念に取り組む必要があります。
- ITシステム – ソフトウェアベースのソリューション運用の基盤となるインフラストラクチャは、持続的なビジネスバリューの提供に必要な拡張性、信頼性、セキュリティを備えたデザインにする必要があります。
- ハードウェア – 完全にデジタルなプロダクトとは異なり、ハードウェアベースのソリューションには、特定の重量、張力、熱、推力、電力などの工業規格への準拠が必要な物理的なフィーチャーが含まれます。
- サイバーフィジカルシステム – 自動車や航空機のような、多数のハードウェアコンポーネントを複雑なソフトウェアルーティンによって制御するシステムの場合、複数のチームで構成された大規模なチームで対処すべき多数の品質基準が複雑に絡み合っています。
こうした分野に分かれて仕事をするアジャイルチームとARTは、開発サイクルの早い段階で特定のプラクティスを実践して、すべてのプロダクトインクリメントに品質が組み込まれるようにします。プラクティスの中には分野を問わずに実践されるものもあれば、ある1つの分野に最適化されているものもあります。以下で説明します。
- 基本的なアジャイル品質プラクティス – すべての分野に適用されるプラクティスです。作り込み品質の基盤となる構成要素であり、学習のシフトレフト、ペアリング、ピアレビュー、共同オーナーシップ、ワークフロー自動化などのテクニックが含まれます。
- ビジネス品質基準 – 「ビジネス機能」分野に特有のプラクティスで、通常はIT以外の業界固有の標準や規制を対象とします。例えば、法務チームは、国や地域の特定の法律による制約を受けると考えられます。またHRチームには、厳格なプライバシー規制の下での業務の遂行が求められるでしょう。
- アジャイルソフトウェア開発の品質プラクティス – ソフトウェアを活用したあらゆるソリューションの開発に適用されるプラクティスです。継続的な統合、テストファーストの開発、リファクタリング、アジャイルアーキテクチャなどが、このカテゴリに含まれるテクニックの一部であり、作り込み品質を実現し、デジタルを活用したソリューションのデリバリーを効率化します。
- ITシステムの品質プラクティス – 例えば、コードとしてのインフラストラクチャ、遠隔測定、観測可能性、自動化されたガバナンスなどの実装が、ビジネスのアプリケーションをホストするインフラストラクチャに品質を作り込む上で有効です。
- アジャイルハードウェアエンジニアリングの品質プラクティス – ハードウェアベースのソリューションの開発に適用されるプラクティスです。こうしたソリューションは、変更に非常に大きなコストがかかる場合がありますが、モデリング、シミュレーション、迅速なプロトタイピングによって品質を保証し、コストのかさむ手直しを避けられます。
- サイバーフィジカルシステムの品質プラクティス – 世界でも特に複雑なシステムの多くは、品質の作り込みも容易ではありませんが、モデルベースシステムエンジニアリング (MBSE) と頻繁なエンドツーエンドのシステム統合により、その難易度を緩和できます。
上記のプラクティスは、ソリューションのあらゆる要素が高い品質基準で開発され、持続可能な最短のリードタイムで提供できるように、適切に組み合わされています。詳しくは、「作り込み品質」の記事で取り上げています。
フローを加速する
原則6 – 途切れることのないバリューフローを実現するから明らかなように、SAFeは、迅速で効率的なバリューのデリバリーを促進するフローベースのシステムです。フローは、アジャイルチーム、ART、そしてポートフォリオが遅延を最小限に抑えて、高品質なプロダクトやサービスを提供できるようになることで生まれます。
バリューストリーム全体でフローを加速するため、SAFeのあらゆるレベルにおいて、絶えずムダの多いアクティビティを検出し、改善します。特に、TTAコンピテンシーは、アジャイルチームがバリューストリームの自分たちが担当するパートにおける非効率性を迅速に特定し、それを「チームフロー」の記事で説明するフローアクセラレーターを使って是正することを可能にします。チームのTTAの習熟度が上がるほど、フローの問題を検出し、是正するスピードも上がります。
TTAはまた、ARTによるフローの加速を可能にする要因の1つでもあります。ただし、ARTフローを可能にするより直接的な要因は、アジャイルプロダクトデリバリーです。
まとめ
TTAは、特定の働き方に縛られることなく、機能横断的なアジャイルチームがバリューのデリバリーを加速することを可能にします。これにより、長期にわたってともに学び、成長し、素晴らしいプロダクトを提供するチームが促進されます。ARTには複数のアジャイルチームが含まれ、機能横断的で、ソリューションデリバリーライフサイクルを最初から最後までカバーできます。アジャイルチームとARTは、自分たちが提供するあらゆるものに品質を作り込むことに対して、相互に責任を負います。その結果、企業規模での継続的なバリューの提供に必要なチーム&テクニカルアジリティを備えた組織が生まれます。
詳しく学ぶ
[1] Manifesto for Agile Software Development. http://AgileManifesto.org/最終更新: 2023年5月26日