The emphasis should be on why we do a job.
—W. Edwards Deming, Paraphrased from The New Economics for Industry, Government, Education [1]
ARTバックログとソリューショントレインバックログ
ARTバックログは、ソリューションを強化し、そのアーキテクチャランウェイを拡張することを意図したフィーチャーとイネーブラーを把握し、管理するためのカンバンシステムです。
ソリューショントレインバックログは、大規模ソリューションを強化し、そのアーキテクチャランウェイを拡張すること意図したケイパビリティとイネーブラーを把握し、管理するためのカンバンシステムです。
ARTバックログとソリューションバックログには、やがて必要となるソリューションのフィーチャー、ケイパビリティ、非機能要件(NFR)が取り込まれます。 バックログを管理することは、トレインやポートフォリオにとっての重大な経済的推進力です。 プロダクトマネジメントはARTバックログの責任を持ち、ソリューションマネジメントはソリューショントレインバックログの責任を持ちます。 これらのバックログはカンバンシステムで視覚化・管理され、顧客への継続的なバリューフローを確保するために、フィーチャー、ケイパビリティ、イネーブラーが把握され、定義され、進化させ、優先順位がつけられます。
詳細
プロダクトマネジメントとソリューションマネジメントは、ARTバックログとソリューショントレインバックログを作成・維持し、優先順位をつけます。顧客、ビジネスオーナー、プロダクトオーナー(PO)、システムアーキテクト、ソリューションアーキテクト、その他(例えば、RTE/STE)などのステークホルダーと積極的に協力し、ソリューションを発展させるために必要なフィーチャーやケイパビリティを発見します。
図1は、ARTバックログとソリューショントレインバックログとその主なインプットを示しています。
1) ポートフォリオエピックはフィーチャーやケイパビリティに分割される
2) ソリューショントレインのローカルコンテキストから生じるケイパビリティとイネーブラー
3) ソリューショントレインのケイパビリティはフィーチャーとイネーブラーに分割される
4) ARTのローカルコンテキストから作成されたフィーチャーとイネーブラー
効果的なソリューションは、すべての機能要件と非機能要件(NFR)を満たす必要があります。 図1のバックログの下に表示されている非機能要件(NFR)は、バックログ全体に制約または制限として働き、ソリューションの設計とパフォーマンスに影響を与えます。それらは通常、受け入れ基準や、完了の定義(DoD)の一部として把握されます。 非機能要件は存続し続ける特性があり、ARTでは完了の定義(DoD)の一部としてそれらを再検討することがよくあります。
バックログの作成とリファインメント
プロダクトマネジメントとソリューションマネジメントは、継続的なフローベースアプローチを採用してバックログを精緻化し、フィーチャーとケイパビリティが、適切なレベルの発見とリスクの範囲内で実装する準備が整っていることを確認します。ARTバックログとソリューショントレインバックログを精緻化して確実に準備を整えるには、多くの場合、以下の活動が必要になります。
- 新しいフィーチャーとケイパビリティを発見する
- バックログ項目の定義(受け入れ基準とベネフィット仮説の作成を含む)をレビューし、更新する
- 新しいフィーチャーとケイパビリティをサポートするのに必要なイネーブラーを特定する
- フィーチャーとケイパビリティを明確にするビヘイビア駆動開発(BDD)手法を適用するか、仕様ワークショップを開催する
- ビジネスオーナー、システムアーキテクト、PO、その他の関係者(RTE/STEなど)と協力し、Weighted Shortest Job First (WSJF)を使ってバックログに優先順位をつける
- PIプランニングに向け、アジャイルチームとステークホルダーに対して次回のフィーチャーとケイパビリティについての概要を伝える
- 古くなった項目と、関係のなくなった項目を削除する
リファインメント活動は、POシンク中に頻繁に行われ、プロダクトマネジメントとプロダクトオーナーは、新しいバックログ項目を特定し、他のバックログ項目を見直し、陳腐化したバックログ項目を削除します。適切に管理されたバックログは、PIプランニングイベントとPI実行を成功させるための必須条件です。
カンバンを使ったバックログの管理
ARTカンバンシステムとソリューショントレインカンバンシステムは、フィーチャーとケイパビリティのフローを継続的デリバリーパイプラインを通じて促進します。図2は、各状態を管理するポリシーとWIP制限の例を含んだ典型的なARTカンバンを示しています。これは良い出発点ですが、このカンバンシステムはトレインのニーズ (WIP制限の定義と各状態の具体的なポリシーなど) に合わせて適合させる必要があります。
次のプロセス状態は、ARTカンバン/ソリューショントレインカンバンのフローの例を示しています。
ファネル – ファネルではすべてのビッグアイデアが、通常はフィーチャーやケイパビリティとして捉えられます。 これらのアイデアは、必要とされる新たな機能、既存システムの機能強化や、イネーブラーを示唆している可能性があります。
分析 - 利用可能なキャパシティがある場合、ソリューションビジョンと戦略テーマに沿った新規のアイデアは、アジャイルチームによってさらに探求されます。分析には、一つ以上の定型書式で書かれたフィーチャー (上記のバックログリファインメントを参照) を作成するための、継続的な探索活動 (例えば、顧客中心の考え方、デザイン思考) とコラボレーションが含まれます。 この状態のWIP制限は、プロダクトマネジメントとソリューションマネジメントの空き具合、チームのキャパシティ、その他の特定分野のエキスパートを考慮に入れます。
準備完了 – プロダクトマネジメントやソリューションマネジメントによって分析・承認された最優先のフィーチャーが「準備完了」状態に進みます。 フィーチャーは、WSJFによって、バックログの残りの部分と比較して優先順位がつけられ、実装を待つことになります。
実装 - チームが仕事を開始すると、フィーチャーは実装状態に移されます。各チームはPI全体を通じてフィーチャーを実装します。
ステージング環境での検証 - 「ステージング環境での検証」ステップには、「進行中」と「準備完了」の2つの下位の状態があります。
- 進行中 – 実装済みでフィードバックの準備が整ったフィーチャーは、「進行中」状態に移されます。チームはステージング環境でそのフィーチャーをシステムの残りの部分と統合し、テストした後、承認のために提示します。
- 準備完了 – 承認済みのフィーチャーは、「ステージング環境での検証」状態の「準備完了」バッファーに移され、それらは WSJFによって再び優先順位がつけられ、デプロイメントを待つことになります。
本番環境へのデプロイ - 「本番環境へのデプロイ」ステップには、「進行中」と「準備完了」の2つの下位の状態があります。
- 進行中 – フィーチャーは、自動化された継続的デリバリー環境では、直ちに本番環境に移されます。あるいは、キャパシティがある場合、手動デプロイメントのために「進行中 」状態に移されます。
- 準備完了 - リリースとデプロイメントを分離しているARTは、項目を「本番環境へのデプロイ」の「準備完了」バッファーに移してリリースを待ちます。場合によっては、フィーチャーは自動的にリリースされた後、すぐにユーザーがアクセス可能になります。デプロイ済み (だが、未リリース) のフィーチャーの蓄積を避けるために「準備完了」状態ではWIPが制限されます。
リリース - 十分なバリューがあり、市場ニーズがあり、機会がある場合、フィーチャーはそのベネフィット仮説を評価するために一部の顧客やすべての顧客にリリースされます。
完了 - フィーチャーがリリースされ、評価された後、「完了」状態に移されます。 ただし、新しい作業項目が顧客からのフィードバックを元に作成される可能性があります。
ARTとソリューショントレインのエピック管理
ARTやソリューショントレインのイニシアティブの中には、単一のPIで完了するには大きすぎるものがあります。これらのARTやソリューショントレインのエピックは、通常、図3に示すように、別々のカンバンシステムで特定・管理されます。また、ポートフォリオエピックの中には、インクリメンタルな実装を容易にするために、ARTとソリューショントレインのエピックに分割する必要があるものもあります。主にローカルな懸案事項ですが、これらのエピックは財務的、人的、その他のリソースに影響を与える可能性があり、リーンポートフォリオマネジメント (LPM) のリーンビジネスケース、ディスカッション、財務承認を正当化するのに十分な規模になる可能性があります。ポートフォリオエピックのしきい値を超えるエピックはレビューと承認が必要です。これは予算支出の際の重要なガードレールです。
このカンバンシステムの主な目的は、ARTとソリューショントレインのエピックを分析・承認するためであり、フィーチャーやケイパビリティに分割することです。それらの機能はARTカンバンやソリューショントレインカンバンを使ってさらに探索され、実装されます。ローカルコンテキストにおいて、ARTとソリューショントレインのエピックが発生する頻度によっては、これらのカンバンシステムが必要ない場合があります。
ARTカンバンやソリューショントレインエピックカンバンのプロセス状態は、例えば、次のようなポートフォリオカンバンのようなものです。
ファネル – 「ファネル」状態ではすべての大型のイニシアティブが歓迎されます。WIP制限はありません。
レビュー - 特定分野のエキスパート (SME) とステークホルダーがエピックをレビューし、WSJFとその他の基準によって優先順位をつけ、より詳細な探索のためにどれを移すべきかを決定します。その項目が、LPMが設定したポートフォリオエピックのしきい値を超えている場合、ポートフォリオカンバンに移動します。「レビュー」状態のWIP制限は、SMEの空き具合を考慮に入れます。
分析 - この探索の段階では、SMEとステークホルダーは以下の分析を行います。
- サイズの見積りを精緻化した後、他のエピックと比較してWSJFを見直す
- ソリューションの代替案を検討する
- 市場に出せる最小限のフィーチャー (MMF) や実用最小限のプロダクト (MVP) の可能性を特定する
- コストを予測し、(エピックの記事に記述されている) リーンビジネスケースを使用して、テクノロジー、アーキテクチャの使用可能性、インフラストラクチャを特定する
分析とインサイトに基づいて、プロダクトマネジメントとソリューションマネジメント、ビジネスオーナー (および必要に応じてLPM) は、そのエピックを承認するか却下します。承認されたエピックは、フィーチャーやケイパビリティに分割された後、ARTカンバンかソリューショントレインカンバンのファネルに移され、WSJFに基づいて優先順位がつけられます。WIP制限が分析状態に適用されます。
ポートフォリオカンバンと同様に、ARTとソリューショントレインのエピックには通常、それらを定義し、探索し、実装するのを支援するエピックオーナーが必要です。
キャパシティ配分によるバリューのデリバリーとソリューションの健全性のバランスを取る
すべてのトレインは、フローベロシティの低下や技術の陳腐化を避けながら、ビジネスフィーチャーやケイパビリティのバックログと、アーキテクチャランウェイを構築、維持するイネーブラーへの継続的な投資とのバランスを取る必要があります。 さらに、これらのイネーブラーは、将来のPIに向けた要求事項の探索とデザイン思考の適用、プロトタイプとモデルの作成、機会と問題領域の見える化をサポートします。
WSJFの優先順位付けの際のコラボレーションは、多くの場合、懸案事項を伝え、仕事のバランスを適切に保つのに十分です。そのアプローチが不十分な場合、プロダクトマネジメントとソリューションマネジメントは、アーキテクトと協力し、キャパシティ配分を適用して、ARTが今後のPIの各活動タイプに用意する総工数の割合を決定することができます。図4はキャパシティ配分の例を示しています。
合意に至ったキャパシティ配分は、複数のPIにおいて維持される可能性がありますが、PIプランニングの準備としてバックログリファインメント中に定期的にレビューし、調整する必要があります。
詳しく学ぶ
[1] Deming, W. Edwards. The New Economics for Industry, Government, Education. The MIT Press, 2018.Knaster, Richard, and Dean Leffingwell. SAFe 5.0 Distilled, Achieving Business Agility with the Scaled Agile Framework. Addison-Wesley Professional, 2020.
Leffingwell, Dean. Agile Software Requirements: Lean Requirements Practices for Teams, Programs, and the Enterprise. Addison-Wesley Professional, 2010.
Reinertsen, Donald G. Principles of Product Development Flow: Second Generation Lean Product Development. Celeritas Publishing, 2009.
最終更新: 2023年10月9日